大田市場見学
東京青果(株)のご案内で、大田市場(おおたしじょう)の青果部を見学した。
市場と聞くと築地や豊洲の魚市場を思い浮かべがちだが、大田市場は東京都大田区に位置する日本最大の中央卸売市場。1989年に開場し、青果・花き・水産物を扱う総合市場として整備された。青果の取扱金額は年間3,150億円、取扱量は毎日約4000トンにのぼる。東京都民1,200万人が口にする野菜や果物の約55%がここを経由し、まさに「東京都の台所」である。
市場内の建物は広大で、面積は東京ドーム約8.5個分に相当する。訪れた日は東京の最高気温が35.5℃という猛暑日だったが、場内は屋根近くの高い場所までひんやりと涼しく、効率的な冷房システムの威力に驚かされた。取引は早朝に集中し、野菜などの出荷も朝のうちに終わる。その活気ある光景を見たいなら、朝7時台に足を運ぶ必要がある。今回の見学は午前11時だったため、野菜はもちろん、野菜くずや野菜ゴミすら見かけなかった。青果を扱う市場なのに、場内は驚くほど清潔である。
|場内11時ごろの風景
卸売市場は、全国の生産者と仲卸業者、量販店、飲食店を結ぶハブとして機能している。生鮮品は時間との勝負であり、効率的な売買と物流が何より重要。市場内外のIT化・スマート化も進んでおり、効率的な物流網やオンライン取引の導入によって、より迅速かつ安定した供給体制が整えられている。日本では輸入果物は豊富に出回っているが、青果の輸出はまだ少ない。香港やシンガポールなどアジア市場に向けて販売を拡大している仲卸業者をも訪問した。多くのアジア都市は、当日出荷当日着も可能である。今後のこのような国際展開が期待される。
大田市場は進化し続けている。これからの進化の方向性についても議論された。トラックとの連携の一層のスマート化、DX化はもちろん大方向である。無人の自動運転フォークリフトも話題になった。もう一つ注目すべきは、卸売市場が長年にわたり蓄積してきた取引量と価格の膨大なデータである。農業のスマート化・ビッグデータ化が進む今、これらのデータは価値の高い資産になる。うまく活用すれば、生産者の作付け計画や価格変動へのリスク管理に応用できる上、消費者にとっても安定した価格と供給の恩恵が広がる。
見学の締めくくりは天丼。大ぶりのアナゴが2尾ものって、とても豪快、美味しかった(写真)。
地図アプリ
地図アプリといえば、世界で最も有名なのはGoogleマップであろう。出かける際の電車経路検索や店探しに、いまや欠かせない存在となっている。アクセス不便な場所も案内することで、不動産の価値向上にも寄与し、パワフルなアプリである。
しかし、中国ではGoogleマップはあまりパワフルではない。重慶にはマリオットホテルが2つあるが、Googleマップは両方とも同じ住所として表示していた。それを依拠に予約した結果、キャンセルして予約し直す羽目になった。
重慶の中心街解放碑エリアで、イタリアンレストランをGoogleマップで検索し、ヒットした店が出てきた。半信半疑ではあったが、辛い重慶料理から逃れたい一心で4人でその店を目指した。案内されたのは飲食店が多数入る大きなビル。しかし目当てのイタリアンはどこにもなかった。周囲の店でも聞き込みをしたが、誰もそんな店は知らないという。結局、香港料理を食べることになった。実害はなかったが、友人たちからの信用は少し下がったかもしれない。
中国の代表的な地図アプリには百度地図や高徳地図がある。これらは性能が高く、運転用に使うと日本のカーナビよりも案内が丁寧で使いやすいと評判である。これらのアプリは中国で販売されているスマートフォンや中国ブランドの端末なら簡単にインストールできるが、日本で購入した海外ブランドのスマホではセキュリティが引っ掛かり、インストールには手間がかかる。これも一種のデジタルデバイドである。
都会では、高速道路が複雑に交差するのも景観の一つである。重慶には高速道路が8層に交差する場所がある。さすがにどんな高性能カーナビでもここはお手上げらしく、百度や高徳のナビシステムでさえ「他のカーナビを使ってみてください」と案内を出すという。広い世界でも、そんな場所はおそらくここだけであるといわれている。
黄金株
日本製鉄は、USスチールの全株式を約149億ドルで取得し、完全子会社化した。この買収は、2023年12月に両社が合意を発表してから、完了する2025年6月18日まで、およそ1年半を要した。
この買収に対して、バイデン政権は2024年1月に買収阻止命令を出し、その後、トランプ大統領も反対を表明した。日本製鉄は、投資と雇用を軸に、地元ペンシルベニア州や労働組合、議会、ホワイトハウスなどへのロビー活動や広報活動を続けた結果、最終的に買収を成功させた。ただし、その対価として、①米国政府への黄金株の付与、②2028年までに米国国内で110億ドルの追加投資を行う義務、という条件が課された。
110億ドルの追加投資は、トランプ大統領の任期内に実施される、政治的に分かりやすいアピール材料である。
黄金株とは、通常、拒否権付きの特別な株式であり、わずか1株の保有で、取締役の任免や重要な経営判断に対して拒否権を行使できる強い影響力を持つ。その具体的な内容はそれぞれ異なるが、今回のUSスチールのおける黄金株については、米国政府が設備投資の削減、本社移転、社名変更などに関する監督権を確保した。この黄金株により、米国政府はUSスチールをコントロール下に置き、USスチールが「アメリカの会社」であり続け、経済安全保障も維持できるとしている。
日本製鉄がUSスチールを完全子会社化したとはいえ、黄金株によって経営の自主性が損なわれる可能性も懸念されている。米国政府による経営への干渉により、経営の自由度が制限され、ガバナンスの透明性や将来の事業戦略に影響が及ぶ可能性がある。
政府による黄金株の保有例は多くないが、日本ではINPEX(旧・国際石油開発帝石、東京証券取引所上場)において、経済産業大臣が1株の黄金株を保有し、重要事項の承認権を有している。
黄金株とは異なるが、メタ(旧フェイスブック、NASDAQ上場)では、普通株であるA株に対し、創業者が保有するB株にはA株の10倍の議決権がある。また、メタは議決権を持たないC株も発行している。アリババ(ニューヨーク証券取引所上場、香港証券取引所上場)も、創業者の持株に取締役選任に関する特別な権利が付与されている。
黄金株をはじめ、このような議決権に差をつける株式は「種類株」と呼ばれる。日本の会社法においては、種類株には7つの類型が規定されている。
そもそも議決権の経済的価値はどれぐらいあるでしょうか。
伊藤園(東京証券取引所上場、証券コード2593)は、普通株と第1種優先株式(証券コード25935)を公開発行している。この優先株は議決権がないが、配当は普通株配当に25%上乗せされるほか、残余財産分配の優先権は付与されている(株主優待は普通株と同等)。2024年7月4日時点で伊藤園の普通株は3,218円、優先株は1,766円、約40%も割安。議決権の価値は、想像する以上に大きいと言えるだろう。
アナリスト意見のバラツキ
伝統的理論:合理的投資家
伝統的ファイナンス理論では、金融市場における価格形成は、合理的な投資家たちによって行われるとされている。これらの投資家は、十分な知識と分析能力を備え、入手可能な情報を迅速かつ正確に処理し、証券価格に織り込むことができるとされる。
このような枠組みにおいては、投資家の将来予測は合理的に収束するため、投資判断や証券評価には大きな違いがないと仮定できる。すなわち、予測の「正解」あるいは「コンセンサス」は、投資家たちが認識することになる。
この前提は、たとえば資本資産価格モデル(CAPM)においても採用されている。CAPMでは、すべての投資家が同じ情報にアクセスし、同じ分析力を有しており、最終的に同じポートフォリオに投資することになる。投資家たちが1つの「正解」を認識するという設定である。
検証:アナリスト予想
現実の金融市場において、投資家たちは本当に1つの「正解」を認識できるのだろうか。すべての投資家の意見を調査を行うことは無理であるが、その代わり、証券会社(投資銀行)のアナリストの目標株価予想を比較することが考えられる。
アナリストは、企業の業績や財務状況、業界動向、マクロ経済状況などを総合的に分析し、半年先の株価目標を提示している。彼らはプロフェッショナルであり、豊富な情報にアクセスできる立場にあるため、一般の投資家よりも証券評価の「正解」を認識していると期待される。
例えば、トヨタ自動車の目標株価について、7社の証券会社アナリストの予想(2024年5月〜6月上旬)は次の表の通りである。
3,000 3,200 3,200 3,200 3,100 3,200 3,200
表 トヨタの目標価格(7社、2024年5月〜6月)
完全に一致しているわけではないが、予測値のばらつきは小さく、実質的なコンセンサスが形成されていると考えられる。これは、伝統的理論の前提である「合理的投資家の意見の一致」と整合的な事例といえる。
予想が不一致するケース
一方、同時期のソフトバンクグループ(SBG)の目標株価を見ると、状況は大きく異なる。
11,000 12,960 8,770 13,600 11,000 7,780 12,000
表 SBGの目標株価(7社、2024年5月)
上の表において、目標株価は11,000円前後のグループと8,000円前後のグループに分かれ、大きなばらつきがある。最高値と最低値の差は約6,000円とかなり大きく、同じ時点に同じ企業を評価したにもかかわらず、アナリスト間の意見に大きな開きがあることが分かる。
注目すべき点は、この意見の違いは高い情報収集力と分析力を持つ証券会社のアナリストたち間に存在するものである。情報の質や分析手法が極端に異なるわけではないとすれば、これほどの意見の相違は、投資家たちの視点や見方にかなりの差異が存在し、同じ「正解」を認識しているわけではない事例である。
伝統理論と現実のギャップ
このように、ある銘柄についてはアナリストたちの間でコンセンサスが形成される一方、別の銘柄では意見が大きく異なる現実は、伝統的ファイナンス理論の「合理的投資家」仮定が一律には成立しないことを示唆する。
これらの理論と現実の間に、少なくとも以下の項目において、明らかなギャップが存在する。
項目 伝統理論 現実
投資家能力 合理的同等 能力と視点の違い
情報処理 即時正確 解釈や重視要素の違い
価格形成 合理的期待 不確実性や主観の影響
伝統的ファイナンス理論における「合理的投資家による価格形成」という前提は、便利な分析の枠組みを提供するが、実際の市場参加者の意思決定や行動は理論設定に比べ、より多様で複雑である。この現実とのギャップは、行動ファイナンスの研究対象である。
注目される企業や話題性の高い銘柄に対する将来の展望は、コンセンサスが形成される場合と見方が大きく分かれる場合がある。この謎に対して、行動ファイナンスの枠組みを利用して、情報の非対称性、行動バイアス、認知限界等の制約を織り込んだ究明が求められる。これらの作業から得られる知見は、実務への応用も期待されよう。
日本ダービー
日本ダービーは、皐月賞、菊花賞と並ぶ牡馬三冠レースの一つで、毎年5月下旬から6月上旬の日曜日に東京競馬場で開催、3歳のサラブレッドが出走するG1競走である。今年は6月1日に開催され、クロワデュノールが優勝をした。
クロワデュノールは、皐月賞でも2着に入る実力を持ち、ダービーでは単勝オッズ2.1倍の1番人気。なお、2番人気は5.7倍、3番人気は6.8倍であった。競馬において、馬の勝利確率を客観的に知ることはできないが、オッズの逆数は、参加者投票結果としての「主観的確率」とみなすことができる。この「主観確率」は、クロワデュノールは約48%、2番人気は約18%、3番人気は約15%の勝利確率である、と出走前に分かる。
つまり、1番人気の馬券を購入することは、主観確率48%で勝つゲームにベットする。2番人気であれば18%、3番人気なら15%の確率のゲームに賭けることになる。ちなみに、15番人気の馬は単勝オッズ298倍であり、その逆数の主観的勝利確率は約0.3%と極めて低い。こうした馬券は一般に「大穴」と呼ぶ。
ここで注目すべきなのが、人間の「確率認識のバイアス」である。プロスペクト理論によれば、人間は確率を正確に認識できず、とりわけ小さな確率を過大に評価する傾向がある。30%や50%といった程度の確率は比較的正確に捉えられるが、小さい確率は、実際よりかなり大きな倍率で感じる。そのため、48%のゲームは合理的に判断されやすいが、大穴馬へのベットは、強い確率バイアスによって非合理的な選択になりやすい。
なぜ人は小さな確率を過大に認識してしまうのか。競馬においては、以下のような心理的メカニズムが影響していると考えられる。
1)利用可能性ヒューリスティック
メディアなどで取り上げる「万馬券」や「大穴的中」のストーリーが記憶に残りやすい。印象的な出来事が「すぐ思い出せる」ために、その頻度や確率も高く見積もってしまい、大穴は実力以上にかがやく。このような印象の強さや思い出しやすさによって発生するバイアスは利用可能性バイアスを構成する。
2)ハウスマネー効果
これまでの(一日の)レースで勝った人たちはある割合いる。彼らはすでに得た賞金を「自分の資金」と見なさず、「ハウスマネー(胴元の金)」と認識する傾向がある。人のお金を使うという心理状況は、よりリスクの高い選択にする傾向を作り出す。「勝ち金で勝負する」という心理的”余裕”が、大穴狙いの動機になり、大穴には実力以上の買いが集まることになる。
3)ブレークイーブン効果
これまでのレースで負けた人たちは、損失を取り戻そうと、高リスクの賭けに出やすい。この「一発逆転」を狙って損を取り戻そうとする心理によるバイアスは、ブレークイーブン効果という。大穴の過度な人気は、このような損を取り戻そうとして無理にハイリスクにベットする資金に支えられている部分がある。
これらの心理的要因によって、大穴の馬券に実力以上の資金が集まり、オッズが実力より低下し、主観的勝率が上昇する傾向になる。
継続的に競馬に投資をするなら、高人気馬(=高確率のゲーム)に賭けた方が、成果が相対的に安定するかと思われる。一方で、大穴狙いは心理的、感情的な魅力はあるが、投資成果はかなり不安定で、損失のリスクは大きい。行動経済学・行動ファイナンスのフレームワークを利用する考察の結論は、直感的な感覚と整合的である。
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アカデミアと実業の垣根を超えたコミュニケーションの機会として、経営懇談会「MBS クロストーク」を開催いたします。
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第3回 2025/7/19(土)19:00~20:30
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第4回 2025/10/18(土) 19:00~20:30
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ゲスト:齊藤 昇 BIPROGY株式会社 代表取締役社長CEO
司会:池田義典特任教授
第5回 2025/11/15(土) 19:00~20:30
「グローバル企業での学び」
ゲスト:井辻 秀剛 北陸コカ・コーラボトリング株式会社代表取締役社長
司会:橋本雅隆専任教授
第6回 2025/12/13日(土) 19:00~20:30
「企業内価値と市場価値、どちらを高めるか?」
ゲスト:内田 和成 ボストン・コンサルティング・グループ元日本代表、元早稲田ビジネススクール教授
司会:首藤明敏専任教授
宜しくお願いします🔴
研究成果の積極的発信したいと思います。
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LINEの公式ページも間もなく開設。
公開授業中止
さくらサイエンス 明治大学🌸清華大学
下記イベントは中止とさせていただきます。関係者の皆様には大変ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。
(プログラム担当)王京穂
さくらサイエンスプログラム
明治大学×清華大学 オープン授業
さくらサイエンスプログラムは、日本の科学技術学術振興機構が運営する国際人材交流プログラムである。プログラムの目的は、日本と世界の若手研究者や学生との交流を促進し、科学技術学術分野における連携の強化である。明治大学と中国清華大学のプログラムは12月17日から22日まで実施する。以下の授業を公開する。
プログラム名: 高齢化と介護―社会保障、金融とテクノロジーの応用
実施機関: 明治大学(MBS)
参加者: 清華大学社会科学学院の博士学生および講師 8名
場所: 明治大学アカデミコモン9階 309J教室
公開授業日程
12 月 18 日(水)
・ 9:00 開講式(オリエンテーション)
・ 9:30 日本のシニア市場(中島聡先生、MBS非常勤講師)
・11:00 成長産業とCCRCのビジネスモデル(山口不二夫先生、MBS教授)
・13:30 人生100年時代の金融サービス(王京穂先生、MBS教授)
12 月 19 日(木)
・ 9:00 在宅介護におけるロボットの応用
・10:30 日本の医療保険と介護保険(田中智恵子先生、MBS非常勤講師)
・13:00 日本の再生医療の現状紹介(刘婷先生、明治大学データアナリティクス研究所)
12 月 21 日(土)
・13:00 健康寿命と QOL
・14:00 修了式・交流会
第59回(2023夏)ジャフィー大会
2023/8/19 第59回(2023年度夏季)ジャフィー大会で発表しました。
効率的市場仮説の検証に関するものである。混合反応(消化)プロセスの元に、ボラティリティの変動を軸に、MA-GARCH モデルを利用し、各国の株式市場の指数に対する検証を試みたものである。
ERM価値創造学会17回年度大会
オルタナティブデータ協議会入会
2022/9/26 オルタナティブデータ協議会に入会しました
ERM価値創造学会16回年度大会