① 住居の特性と立地
住居の特性
住居不動産も商品の1つであるが、普通の商品に比べ、いくつかの固有の特殊性がある。
1)耐久性
多くの商品に比べ、住居が寿命長いという耐久性の特徴がある。流行なども考えると、洋服は1~2年、車でも10年ぐらいの寿命であるが、木造の建物は数十年、コンクリートの建物は百年近くの寿命がある。適切な保守や修繕により、不動産の物理的価値の低下速度を減らし、長期に快適的利用することが可能である。そのため、多くの中古物件が市場で流通され、売買されている。一方、土地利用と建築能力の制約から、新しい物件の供給量はわずかである。その意味で、住宅市場は中古物件によって支配されている。
2)多様なニーズ
住居に対する消費者側のニーズは、賃貸や購入だけではない。住宅は資産としての価値があるため、重要な投資商品でもあり、価格上昇や家賃収入を得る投資的機能をも提供する。家賃水準は投資収益率にも不動産価格にも直接影響を与えるなど、異なるニーズ間の関係性は強い。例えば、賃貸市場における空き部屋の数量は新築物件の供給と価格に影響を与える。住居のニーズの多様性とその強い関連性も重要な特性である。
3)異質性
スーパーに並ぶ同じブランドの洗剤の中身は全く同じである。通常の商品は、まったく同じものが多く存在する。これは商品の同質性という。一方、住宅には厳密な同質性がない。同じような住宅でも、立地、面積、部屋数、築年数、階数、眺望、建材、用途などにおいて必ず何等かの違いがある。この異質性のため、住宅を一括りでとらえることは難しく、サブマーケットモデルが利用されることは多い。用途や品質への要求や価格に基づいて、住宅市場をいくつかのサブ市場に分割することが多い。例えば、ワンルームと2LDK、郊外と都心、タワーマンションと低層マンション等。サブマーケットは、近似的に同質性が成立するように分割される。
この異質性のため、住宅の内容や品質を把握することは容易ではない。そのため、専門のコンサルティングサービスや仲介サービスが存在する。また、異質性は、住宅の取引コストを高くし、住宅の流動性を妨げる。
4)立地
立地は、住宅のニーズと価値を最も大きく左右する属性であろう。異なる都市の住宅価格が大きく異なり、同じ都市の中でも、地域によって価格がかなり違う。そのため、住宅に関する研究は通常特定の立地範囲内で行う。
立地属性
立地の属性は、以下のようなもので測ることが多い。
① ある参考点への距離
参考点への距離は立地を構成する重要指標である。参考点はある意味での中心を使うことが多い。例えば、CBDやビジネス集積地、ターミナル駅、商業地区・物流地区、交通路へのアクセス時間も以て測る。
② 周辺環境の物理的特徴
周辺環境も立地の重要な指標である。例えば、地域の歴史や文化的特性、海辺、山頂、眺望、温泉等は考慮される。
③ 土地や周辺土地の用途と使用制限
同じような場所や面積の土地でも、用途が制限されると、その利用価値に大きな違いが発生する。例えば、工業用地か住宅用地、前面道路の状況、容積率などは重要な立地要因である。
④ 周辺地域の社会経済状況
地理的な違いはあまりない場合も、周辺地域の状況、例えば住民の経済的背景や社会的背景は、地域の価値に影響を与える。
⑤ 地方自治体の行政管理範囲。
地理的な違いはあまりない場合も、地域が帰属する行政管理の違いも地域の価値に影響を与える。
上記の要因のため、同じような部屋でも立地が異なると、価格が異なる。また、土地の物理的な位置は絶対的であるが、住宅属性は社会や経済の発展に伴い変化する可能性がある。例えば、新しい中心商業地区の形成や土地利用制限の変更などを考えれると、立地属性は相対的であると考えられる。
② AMM:単一中心モデル
単一中心モデル
通常の商品の選択において、いわゆる機能・性能と価格のバランスで決まる。ここの性能や機能は商品の効用を構成する。住宅の場合、その効用を構成するものは、立地、面積、築年数、階数、眺望などである。その中、立地は最も重要な効用の要素である。このことは、東京の不動産価格の地域分布を見れば、明らかである。
すなわち、理論的に立地属性を効用関数に取り入れる必要がある。その中で、マイルストーン的なモデルとして、Alonso-Mills-Muth(AMM, 1964)の中心都市住宅モデルがある。AMMモデルにおいて、都市のすべての経済活動が1つの経済中心に集中し、人々が中心の周辺に住み、中心に通勤すると仮定する。住宅地は中心を囲む円形の地域を形成する。都市が平坦で、住宅の立地は中心との距離tだけで表現し、通勤コストがK(t)である。住宅は、立地と面積以外の品質が全部同様であるとされる。
消費者の(月)収入がY、(月)通勤コストがK(t)、住宅以外の(月)商品消費がzであるとする。P(t)は中心から距離tの住居の(月)単位面積賃料で、qは部屋の広さとし、消費者の収入をY、貯蓄をしないとして、予算制約は次のようになる。
Y=z+P(t)*q+K(t)
一ヶ月の支出は、通勤費用K、家賃p*q、その他の支出zから構成する。効用関数において、効用をもたらすのは住宅の広さqとその他の商品への消費支出zである。消費者の効用は、u(z,q,t)とし、住居面積q、住居以外の消費zと中心からの距離(通勤時間)tの関数になる。通常、人は広い家に住みたいし、他の消費も多くしたいが、時間をかけて通勤することは嫌う。そのため、効用uは、qとzに対しては増加関数、tに対して減少関数である。消費者は収入制約の下で、住宅の立地と中心への通勤コストのバランスを考慮して効用を最大化する。
なお、ここで、距離tが通勤費用以外に効用U()に影響しないと単純化すれば、効用はU(q,z)となる。
最適消費
最適消費は、U(q,z)選択の条件付き最適化問題である。
Max U(q,z,t) +λ(z +P(t)*q +K(t) -Y)
最適解において、一次微分がゼロになるので、
Uq +λP(t)=0
Uz +λ=0
λ(Pt*q + P*qt +Kt)=0
を満たす。なお、Uq、UzはそれぞれUのq、zに対する微分で、KtはKのtに対する微分である。一般的に、K(t)は距離に比例するので、
K(t)=m*t
Kt=m
であるため、レントL(t)=P(t)*q(t)とすると、
Lt = -Kt = -m
が得られる。これは、家賃の構成項に、
L(t)=...-m*t +....
という項の存在を意味する。これは、家賃の回帰モデルによくみられる項である。
整理して、
Uq/Uz = P(t)
Pt*q = Ut/Uz -Kt
Pt*q+P*qt = Ut/Uz -Kt
となる。ここで、距離tが(直接に)効用U()に影響しないと単純化すれば、最適点において、
Pt*q = -Kt
である。通勤費用がtに比例して線形であれば(mが定数)、
K(t)=m*t
Kt=m
Pt*q = -m
となる(mが定数)。
3)消費者選択の結果
q = m/Pt
Pt q= m
となる。
③ ヘドニックモデル
ヘドニック法
1920 年代にも農産品の価格はその属性(果実の大きさや色)によってどのように変動するかを評価する手法が開発された。1939年にAndrew Court が自動車価格に関する研究である。「自動車の価格は、馬力、サイズや重量などの属性に依存する」として、属性ごとの価格寄与の推定を試みた。1925~1935 の 10 年間において、販売されている自動車の価格は上昇していたが、馬力等の性能属性の違えを考量すると、実際 55%も下落したことがわかった。これがヘドニック価格アプローチの原点とされている。
1960年代、Kelvin Lancaster (1966) が「消費者は財そのものではなく、その財がもたらす属性の組み合わせから効用を得る」とする「消費者理論(特性理論)」を発表した。Sherwin Rosen (1974) が製品の価格を属性の関数として表す数理的モデルを提示し、ヘドニックモデルの理論的基礎を築きました。
商品を機能(属性)の束として扱うことができる場合、それぞれの機能が商品価格に与える影響をヘドニック法を利用してモデリングできる。機能の価格の合計は商品価格になるのである。
Pi= Σj βjXij+ei
Pi:i 番目商品の価格 βj: j 番目属性の価格 Xij:i 番目商品の j 番目属性
不動産市場における応用
1970年代以降、米国を中心に、住宅価格や地価をヘドニックモデルで分析する研究が盛んになった。不動産は部屋広さ、駅からの距離、学区、犯罪率、空気の清浄度などの属性を持ち、これらは居住者に機能として提供される。これらの属性や機能は、不動産の価格を形成すると考えられる。
実装において、ヘドニックモデルは形式的には重回帰モデルと同じ形である。サンプルデータには、物件価格と所在地、駅からの距離、内部的特性(広さ、設備など)、外部的特性(立地、環境品質、近隣状況など)が含まれる。サンプルデータに対して重回帰回帰をすれば、こうした属性の価格や賃料への影響を計測され、それらの属性・機能の価格も測れることになる。
例えば、次のようなモデルを作ることができる。
レントi=定数+a1面積i+a2駅から歩行時間i+a3CDBからの距離i+a4築年数i+ei
不動産の属性は多様である。最寄り駅(CBDまでの時間)、駅からの徒歩時間、面積以外に、所在階数、部屋の向きや眺望、洗面所の数、天井の高さ、商業施設の出入口、、周辺住民数、大通りからの距離などが挙げられる。また、窒素酸化物(NOx)濃度といった環境指標、公園や河川への近接性、開発業者のブランド力なども重要な要素となる。
近年では、地理情報システム(GIS)や機械学習を組み合わせたヘドニック分析も登場している。加えて、環境経済学への応用も進み、空気や水の清浄度、騒音、公害など環境品質の価値を推定するツールとしても活用されている。
④小田急線のモデル
ヘドニック法
1920 年代にも農産品の価格はその属性(果実の大きさや色)によってどのように変動するかを評価する手法が開発された。1939年にAndrew Court が自動車価格に関する研究である。「自動車の価格は、馬力、サイズや重量などの属性に依存する」として、属性ごとの価格寄与の推定を試みた。1925~1935 の 10 年間において、販売されている自動車の価格は上昇していたが、馬力等の性能属性の違えを考量すると、実際 55%も下落したことがわかった。これがヘドニック価格アプローチの原点とされている。
1960年代、Kelvin Lancaster (1966) が「消費者は財そのものではなく、その財がもたらす属性の組み合わせから効用を得る」とする「消費者理論(特性理論)」を発表した。Sherwin Rosen (1974) が製品の価格を属性の関数として表す数理的モデルを提示し、ヘドニックモデルの理論的基礎を築きました。
商品を機能(属性)の束として扱うことができる場合、それぞれの機能が商品価格に与える影響をヘドニック法を利用してモデリングできる。機能の価格の合計は商品価格になるのである。
Pi= Σj βjXij+ei
Pi:i 番目商品の価格 βj: j 番目属性の価格 Xij:i 番目商品の j 番目属性
不動産市場における応用
1970年代以降、米国を中心に、住宅価格や地価をヘドニックモデルで分析する研究が盛んになった。不動産は部屋広さ、駅からの距離、学区、犯罪率、空気の清浄度などの属性を持ち、これらは居住者に機能として提供される。これらの属性や機能は、不動産の価格を形成すると考えられる。
実装において、ヘドニックモデルは形式的には重回帰モデルと同じ形である。サンプルデータには、物件価格と所在地、駅からの距離、内部的特性(広さ、設備など)、外部的特性(立地、環境品質、近隣状況など)が含まれる。サンプルデータに対して重回帰回帰をすれば、こうした属性の価格や賃料への影響を計測され、それらの属性・機能の価格も測れることになる。
例えば、次のようなモデルを作ることができる。
レントi=定数+a1面積i+a2駅から歩行時間i+a3CDBからの距離i+a4築年数i+ei
不動産の属性は多様である。最寄り駅(CBDまでの時間)、駅からの徒歩時間、面積以外に、所在階数、部屋の向きや眺望、洗面所の数、天井の高さ、商業施設の出入口、、周辺住民数、大通りからの距離などが挙げられる。また、窒素酸化物(NOx)濃度といった環境指標、公園や河川への近接性、開発業者のブランド力なども重要な要素となる。
近年では、地理情報システム(GIS)や機械学習を組み合わせたヘドニック分析も登場している。加えて、環境経済学への応用も進み、空気や水の清浄度、騒音、公害など環境品質の価値を推定するツールとしても活用されている。