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<<  貿易赤字とドル覇権  

貿易赤字と経常収支

 貿易収支とは、ある国のものの輸出金額からもの輸入金額を差し引いた値を指す。貿易収支が赤字になることは、その国が生産したモノ以上に消費していることを意味する。

 生産を上回る消費ができるという点では、一時的に生活が豊かになっているとも言えるが、長期的な持続可能性の観点では懸念が生じる。ただし、もし外国に保有する資産から得られる金利や配当収入等でこの貿易赤字を補うことができるのであれば、その状況は一定程度持続可能であると評価される。このような貿易赤字は、「悪い赤字」ではなく、「容認可能な赤字」と言えるだろう。

 このような国の国際収支の全体像を測る指標が「経常収支(Current Account Balance)」であり、以下の4項目から構成される。

1. 貿易収支(Goods):商品の輸出 − 輸入

2. サービス収支(Services):運輸、旅行、知的財産などのサービス収入 − 支出

3. 第一次所得収支(Primary Income):海外からの利子・配当・投資利益の受取 − 支払

4. 第二次所得収支(Secondary Income):政府援助や個人送金などの受取 − 支払


 たとえば、日本の経常収支は長年にわたり黒字を維持している。かつては貿易黒字が主な要因であったが、近年では貿易赤字の年もあった。ただ、貿易赤字の年も、海外投資からの収益(第一次所得収支)の黒字のため、経常収支全体では黒字を保っている。このように、貿易赤字があっても、それを海外投資収益等でカバーできれば、持続可能と考えられる。多くの先進国の国際収支も、貿易が赤字、第一所得収支が黒字という構造である。


米国の経常収支

 米国の2024年における主要な国際収支は以下の通りである(単位:兆ドル)。

項目          輸出/受取   輸入/支払    収支  

貿易収支   +2.83  -3.29        -1.11

サービス収支  +1.11  -0.81       +0.30

第一次所得収支 +1.50  -1.46       +0.04

第二次所得収支 +0.20   -0.23          -0.03 

 米国は、旅行・金融・ITなどに代表されるサービス貿易では黒字を計上しているが、モノの貿易赤字がそれを大きく上回る。第一次所得収支は小幅の黒字、第二次所得収支は恒常的な赤字である。USAID(国際開発庁)などを通じた政府援助が第二次所得収支の赤字の原因の1つとされている。

  以下のグラフに示すように、米国の経常収支は長年にわたり赤字が続いており、その規模は拡大傾向にある。

|米国経常収支の赤字推移(2000年~2024年)


 グラフから、GDPも成長しているため、赤字のGDP比で見れば2000年代初頭と大きな差はないが、絶対金額としての赤字額は大幅に増加していることが分かる。

 一般的な国際貿易のコンセンサスでは、米国の経常赤字は大きな負担ではあるが、ドルの基軸通貨としての地位などによって、米国が世界からも大きな経済的利益を享受している、とされてきた。負担と利益のバランスがあるため、この構造を米国自身が壊す合理性はないと考えられてきた。そのためか、歴代大統領はいずれもこの赤字問題に直面しつつも、既存の仕組みを根本的に変えるには至らなかった。ただし、「損得の計算」は人によって異なるものであり、トランプ大統領はこの構造的な赤字を容認できない姿勢を示したという点で、歴代政権とは一線を画している。


ドル覇権とその持続可能性

 通常の国であれば、米国のような巨額の貿易赤字には耐えられない。しかし、米国はドルの覇権という特別な地位を有する国家である。貿易赤字に伴う対価の支払いを、自国通貨であるドルで行えるという点が他国とは決定的に異なる。通常、貿易赤字が生じた国は、その分の外貨準備を確保しなければならないが、米国はその必要がなく、自国通貨を支払うだけで相手国が納得する。これが、いわゆる「ドル覇権(Dollar Hegemony)」の核心である。

 このドルの特別な地位は、米国の圧倒的な国家実力によって築かれてきたものである。以下の要素は、この実力の経済的根幹を支えている。

 • 世界最大の開かれた市場と旺盛な購買力

 • 国家としての十分な支払い能力と信用力

 • 世界の投資家にとって魅力的、多様で効率的な金融市場

 多くの国々は、米国にモノを売り、その対価としてドルを受け取り、そのドルを再び米国の国債や株式などの資産に投資するということをやってきた。このサイクルは、米国にとっては消費と投資資金の確保を同時に実現する仕組みであり、世界にとってもモノに対する需要の創出と安定資金運用を確保するという相互利益構造となっていた。この構図の下で、GDPが約30兆ドルに迫る米国にとって、年間1兆ドル程度の経常赤字は、「フロー」の観点では大きな問題とは見なされてこなかった。

 しかし、「ストック」の観点から見ると、景色は少し変わってくる。

 2000年以降の経常赤字の累積額は約15兆ドルに達しており、これはそのまま海外の対米債権、外国の保有資産になる。現在、ニューヨーク証券取引所の時価総額は約25兆ドル、米国債の発行残高は約36兆ドルである。15兆ドルという額は軽視できる水準ではない。

 経常赤字が「フロー」の観点では回っていても、「ストック」としての累積が過度に大きくなれば、いずれは調整が不可避となる。この構造を恒久的に維持することは無理である。

貿易赤字を適切に管理することは、現在の国際貿易体制の安定的な維持にとって明らかに重要である。この点からすれば、貿易赤字問題は本来、国際社会全体が共有すべき課題であるはずだが、これまでは主に米国の国内問題として認識されてきた。

 相互関税の妥当性や有効性に関して多くの批判がある。しかし、この政策によって、米国の貿易赤字が世界全体の課題であるという認識が確立したことになる。しかし、相互関税の決定および施行プロセスにおける米国の一方的な姿勢は、国際社会における米国への信頼と信用を大きく損なったとも言える。これはすなわち、ドルへの信認、ドル覇権そのものへの傷でもある。

 米ドルの特別な地位、ドル覇権は、いずれ何らかの形で調整を迫られる時期が訪れるであろう。相互関税の導入は、米国がもはやドル覇権を維持する十分な実力と意志を喪失しつつある兆候であるかもしれない。


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