4月2日、トランプ大統領は「相互関税」の導入を発表した。その内容は以下の通りである。
1)すべての輸入品に対して一律10%の最低関税を課す(4月5日発動)
2)米国の貿易赤字が大きい国に対して、国別の追加関税を導入する(4月9日発動)
追加関税は国別に計算され、日本には24%、EUには20%、中国には34%が適用される。自動車関税については、別枠で一律25%が課される。米国の従来の乗用車関税率は2.5%(EU10%、中国15%、日本は0%)であった。これらの関税措置は世界経済に深刻な影響を及ぼすと見られ、発表直後から世界各国の株価は大きく下落した。
相互関税
「相互関税」は英語の Reciprocal Tariff の日本語訳である。Reciprocal には相互的、互恵的、等の意味があり、中国語圏では「対等関税」と訳される。この制度の導入は事前に予告されており、当初は「相手国と同等の関税を設定する」といったシンプルな仕組みと理解されていた。たとえば、EUの自動車関税が10%、米国が2.5%であったので、米国がEUに対して同じく10%に引き上げるといった措置等が想定されていた。
しかし、実際に導入された制度は全く別のものであった。
BBC、CNN、NHKなどの報道によると、相互関税の税率は以下の式により、国別に算出されているとされる。
(輸入額-輸出額)÷(2×輸入額)
たとえば米国商務省の数字によると、2024年の日本からの輸入額は1,482億ドル、対日貿易赤字は684億ドルである。式に当てはめると、約46%となり、その半分の約23%が日本に対する追加関税である。
なぜ、半分なのか。
貿易赤字の半分は相手国(の企業)に負担してもらうという意味です。
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相互関税の意味
貿易赤字をもとに算出されたこの関税には、明確な理論的根拠がなく、多くの専門家からも批判される。一方で、トランプ大統領は「これによってアメリカは解放され、再び偉大になる」と自画自賛している。このギャップは何によるものか? 計算式の意味を少し考察することで、その背景が少し見えてくる。
これまで、相手国とは個別に交渉を進めてきたが、貿易赤字は米国自身の問題とされていた。しかし、今回の仕組みによって、貿易赤字(の半分)を相手国の責任として転換された。すなわち、米国に輸出したいのであれば、同程度の米国製品を輸入せよ、ということを税率によって管理する。赤字が大きければ関税率は高くなる。米国が長年抱えてきた問題を、この仕組みによって相手国に“転嫁”する。道義的な問題は大いにあるが、技術的には巧妙である。
最低税率は、一律10%である。計算上、貿易赤字が輸入額の20%以下であれば、最低税率は適用される。米国にとっての貿易赤字の許容ラインも明示されることになった。
実力と自信
貿易は相手国があって成り立つものであり、相手国の立場や感情を考慮する必要がある。事前調整や説明がなく、こうした制度を一方的に導入することに対して世界が戸惑う。今回の措置は「強いアメリカによる弱い国いじめ」とも見えるが、実は「もはやアメリカは強くない」というメッセージなのかもしれない。
米国商務省の2024年統計によると、貿易赤字は過去最大の約1.2兆ドル(約185兆円)に達した。最大の赤字国は中国の2,954億ドル、日本は685億ドルで7番目。単純に考えると、米国から毎年1.2兆ドルを流出する。そのドルを米国国債に投資すれば、米国政府は毎年約500憶ドル(利率4%)の利子を払わなければならない。この資金が株式に投資されれば、10年でニューヨーク証券取引所の半数の企業を手に入れる計算となる(同取引所の時価総額は約25兆ドル)。
米国は、この規模の貿易赤字を米国経済および安全保障への脅威と見なしているのも理解できる。貿易赤字が必ずしも悪ではないが、この規模になると、確かに持続可能性に疑問符がつく。
従来は市場開放さえすれば、自国企業が勝てると自信を持っていたアメリカが、貿易赤字の解決手段として、相手国の非貿易障壁や不当な税率の改善に力を入れていた。今回の措置は、もはやアメリカは自国企業の競争力に自信を持てなくなったサインとも受け取れる。
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90日間停止措置
トランプ大統領は、9日に発動したばかりの相互関税を中国以外の国に対して90日間停止すると発表した。その間に各国と具体的に交渉するとのこと。90日間の停止の背景には、米国の金融市場の動揺があるとの説もあるが、相互関税の計算は、貿易赤字を減らす交渉のために設計した計算式であると考えた方が自然である。
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