オルタナティブデータ・ハッカソン🔖
ハッカソンは、ハック(hack)とマラソン(marathon)を組み合わせた造語。特定のテーマに対してプログラマーやソフトウェア開発者がチームを組み、一定期間集中的に開発やサービスの考案を行い、その成果を競うものである。
オルタナティブデータハッカソン2025は、各種オルタナティブデータを(日本語解析)生成AIで活用して、資産運用のアイデアを競うイベントである。使う生成AI(LLMモデル)と豊富なデータは主催者側が用意する。
参加者がエンジニアやクオンツである必要はありません。ぜひ、お誘い合わせのうえご参加ください!
主催者:
申込期間:2025/8/19(火) ~ 9/30(火)
キックオフ:10/06(月) 17:00 ~ 18:00 (オンライン)
実施期間: 10/06(月) ~ 10/10(金) 15:00
成果発表会: 10/15(水) 17:00 ~ 18:30(ハイブリッド開催)
48億円の豪邸
東京のマンション価格は近年大きく上昇し、身近に1億円や2億円の物件も珍しくなくなってきた。しかし、10億円や20億円といった超高級マンションの中はどうなっているのか、一度は覗いてみたいものである。
深圳にある約48億円(2億4,000万人民元)もするマンションを見学した。深圳湾に面した「恒裕深圳湾」の48階に位置するユニットで、延床面積580平米もある超ゴージャス物件である。
エレベーターの扉が開くと、そこはすぐに住居空間。一面に海景が広がる110平米のリビングは、圧倒的な開放感である。洗面・トイレ完備のベッドルームが5室あり、さらにメイド専用の部屋も備わっている。内装・設備・家具はいずれもヨーロッパ製の最高級仕様で統一されており、豪華である。
物件を開発した恒裕実業は、深圳で超高級マンションを専門とする不動産会社であり、見学したユニットは深圳の最高水準のマンションである。
|一面海景のリビング(販売資料から)
都市の豪邸の条件は、何といっても立地と眺望である。中国の人々は特に海景を好み、賑やかな場所が好き。「恒裕深圳湾」の最大の魅力も、この海景と立地にある。深圳の都市の中心は、かつては香港と隣接する羅湖地域にあり、その後福田地域へ、そして現在は南山地域へと西へ移ってきた。「恒裕深圳湾」は、この新たな中心地である南山地域の核に位置している。周辺には中国を代表する大企業の本部が集積しており、東京でいえば丸の内に建つ高級マンションに相当する。
しかし、いくら丸の内と言っても48億円は途方もない価格である。低層階には68平米や160平米のユニットもあり、例えば160平米の部屋は約2,800万人民元、約5.6億万円で売り出されている。このあたりになると、東京の超高級物件と大体同じ価格帯になる。
不動産は不思議な商品である。いくら資金を持っていても、欲しくて買えないものは常にある。高い価格の背景は物件の稀少性である。本来、賢いお金の使い方をするなら、稀少性を避け、より一般的な物件に目を向けるべきであろう。しかし、この稀少性こそが人々にとっての強い魅力である。稀少性は心理的な満足と自己実現をもたらし、さらに資産価値の源泉でもある。
人間が感じる価値は、機能的価値・心理的価値・精神的価値の三つから成り立つ。立派な住宅は、大きな心理的価値や精神的価値を生み出す。快適な生活空間は機能的価値の中心と思われるが、不動産所有は資産価値の維持・向上という重要な機能的価値も提供する。こうして考えると、住居不動産の購買心理には、単なる居住の快適性にとどまらず、それ以外の価値にも強く左右される傾向がある。
バブルは、やはり避けがたいものである。
|恒裕深圳湾外観(販売資料から)
災禍は変革の源泉
9月2日、明治大学アカデミコモンにおいて、日本電子株式会社の相談役であり明治大学OBでもある栗原権右衛門先生による、中国中山大学深圳研究院の日本研修班への講義が行われた。中国中山大学深圳研究院は、明治ビジネススクール(MBS)の中国研修においても頻繁に訪問してきた先であり、今回引率した楊院長からも、これまでに複数のレクチャーを受けてきた。今回の講義には、明治ビジネススクールの学生も加わった。
栗原改革
日本電子株式会社(https://www.jeol.co.jp)は、1945年に設立され、電子顕微鏡、分析機器、医用機器の分野で世界をリードする企業である。多くのノーベル賞(物理学賞・化学賞)に関連する研究では、論文や成果の中で「JEOL製の電子顕微鏡・分析機器を使用した」と明記されるほど、特に電子顕微鏡の分野ではノーベル賞級研究と深く関わってきた。まさに世界の先端研究と高精度生産を支えるインフラ企業である。
設立以来、同社は新しい分野への挑戦を続け、事業規模と売上を拡大してきたが、一方で利益率が低下する「長期低収益期」に入った時期(2008年)、栗原先生は代表取締役社長に就任した。さらに就任直後にはリーマンショックが直撃し、会社はかつてない困難に直面した。
栗原先生は2008年から2019年まで社長を務め、「災禍は変革の源泉」という信念のもと、不採算事業からの撤退や関係会社の統合など、大胆な構造改革を推進し、業績の回復を実現された。
|2000~2008の売上(左軸、百万円)と利益(右軸、百万円)
会社を立て直すために必要なのは、基本的に「何を切り、何を守り、何を伸ばすか」を明確に決断することである。栗原先生は、従来の「技術者主導・技術畑中心」という会社の伝統的な仕組みにとらわれることなく、利益を確保するために大胆な改革を断行された。主な改革の要点は以下のとおりである。
・不採算部門と関係会社の整理
不採算部門を切り離し、過剰に存在した関係会社を再編する決断を下し、収益性の改善と企業再建につなげた。
・利益重視の経営体質の構築
低収益を一時的な偶然として片づけず、3年ごとに中期経営計画を継続的に策定し、利益を最重視する経営体質を築き上げた。
・守るべき技術の堅持
利益を生まない事業は大胆に整理する一方で、「電子顕微鏡技術」や「電子ビーム描画装置」といった創業以来のコア技術は守り抜いた。
危機こそチャンス
栗原先生が社長に就任したのは、会社が「長期低収益期」にあり、さらにリーマンショックが直撃した時期であった。通常であれば「運が悪い」と考えられる状況を、栗原先生は「むしろ運がよい」と言い切った。
改革の方向性はおそらく従来の経営陣にも見えていた。しかしそれが実行できなかったのは、組織的にも個人的にも改革に対する強い抵抗、すなわち「現状維持バイアス」が存在していたからである。
行動経済学によれば、人間の意思決定には様々なバイアスが働く。その中でも最も強力なものの一つが現状維持バイアスであり、これは「心理の慣性の法則」とも呼べる。何も変えずに現状にとどまる方が心地よく感じられるからだ。「住めば都」はその典型例であり、“伝統を大事にする”ことや“モノ・出来事への愛着”も、この慣性の別の表れ方である。
不採算事業の整理や伝統への手入れは、理屈では理解できても実行には大きな困難を伴う。将来性の不確実性を正しく見極め、不採算を切り離す決断を下すことは、組織の慣性を前にすれば通常は容易ではない。
ところが、危機的状況に直面すると、現状維持こそがリスクとなる。組織の慣性は危機によって打ち砕かれ、その時初めて意思決定能力が高まり、変革へと踏み出しやすくなる。まさに危機はチャンスなのである。
つまり「平時には難しい改革も、危機下だからこそ実現できた」ということだ。これは栗原先生の「災禍は変革の源泉」という言葉を体現している。危機の中でこそ、人も組織も真価を発揮し、守るべきものを明確に意識しながら、大胆に変化を受け入れることができる。そこにこそ、持続的な成長を可能にするリーダーシップの本質がある。
|講義後の記念写真
HUAWEI訪問
研修二日目はHUAWEI訪問、一日遊学。
HUAWEI
HUAWEIは1987年に設立され、深圳に本社を置く世界最大の通信機器メーカーである。2024年の年間売上は約17兆円に達し、通信インフラ、コンシューマ端末、産業デジタル化の3本柱を中心に、グローバルで強いプレゼンスを有している。
・通信インフラ事業(売上約7兆円)
携帯電話の基地局や中継局の生産供給、ネットワーク構築を担い、基地局分野では世界シェア1位。会社の基盤事業であり、同社の成長を支える中核分野である。
・コンシューマビジネス(売上約7兆円)
スマートフォン、PC、タブレット、スマートウォッチ、OSなど幅広く展開。特にスマートフォンは、自社開発の高性能CPUを搭載し、LEICA製レンズやAI技術を活用した高画質カメラを備えるなど、中国市場で高性能端末として評価されている。
・産業デジタル化ソリューション(売上約3兆円)
工場管理、交通インフラ(駅・空港)、スマートシティ、再生可能エネルギーの発電・配電管理など、多様な産業分野でデジタルソリューションを提供。
HUAWEIの大きな特徴は、研究開発(R&D)への積極的な投資姿勢である。2024年のデータによれば、研究開発費は総売上高の約20%に相当する。これはアップル、サムスン、ソニーなど他のグローバル企業と比較しても極めて高い水準であり、イノベーション重視の経営姿勢を示している。5G関連の特許保有数では世界首位に位置しており、先端技術分野における優位性を確保している。
深圳・坂田基地
午前中は深圳東北部の坂田地区にある坂田基地を訪問した。坂田は深圳のハイテク産業基地の一つ、多くの研究開発施設・高技術企業がある。高技術産業と都市開発が融合した地域として開発され、高級マンションが立地し、ハイテク企業従事者や研究者などの高所得者層が多く居住する。深圳中心エリアへのアクセスも良く、地域ブランドが高く、日本語で言うとプレミアム地域である。
坂田基地はグローバル本社以外、管理や研究開発、展示等の機能を持つ主要な事業活動の中心である。 大規模な展示場が複数もあり、前にスマートシティやスマート製造・DXに関する「デジタル・ソリューション」の展示を見学したが、今回は再生可能エネルギーや電力・電源インフラ、データセンターなどのソリューションを中心とした「デジタル・パワー」の展示を見学した。自動車の充電インフラや自動運転や車載OSなど、参加者の関心が高い今のテーマが多く取り上げられていた。
|松山湖研究施設
東莞・松山湖拠点
さらなる発展を目指してHUAWEIはその後東莞に進出した。東莞進出背景の1つは、深圳の不動産価格の高騰があるといわれる。平均年収1,000万円以上とされるHUAWEI社員でも深圳での住宅購入が難しい状況である。
HUAWEIが東莞の松山湖で新しい研究開発拠点を作った。この地域はもともと観光地で、美しい湖を有し、近年はハイテク産業の集積地となっている。ここに研究開発拠点以外、研修センター、生産基地、社員住宅を整備し、総額100億元(約2,000億円)以上を投じた。工事は4年を要し、ヨーロッパの街並みを再現したディズニーランドのような環境の中に施設を建設した。
欧米市場で成功するには、ヨーロッパの文化やデザインを理解する必要がある、と会社が認識している。園区内の12の建築群があり、それぞれヨーロッパ12都市のスタイルを再現している。モダンなオフィスビルに加え、ショッピングモール、コンビニ、ジム、図書館など生活施設も整備され、快適な生活空間を提供している。
松山湖の中心建築の1つは図書館である。図書館のメインホールはフランス国立図書館をモデルに建設されたは壮大な建築で、巨大な柱とアーチ状、美しい天井の円形窓など、荘厳、優雅で美しい。蔵書は約9万種類、11万冊以上にのぼり、科学技術や専門分野に加え、文学名著、漫画、美術関連資料など幅広い分野を網羅している。日本の歴史や芸術の本も所蔵している。
|図書館
見学の途中、多くの団体とすれ違い、外国人の来訪者も少なくなかった。この美しい研究施設は接待施設としても機能しているようである。見学時に、社員や研究院はほとんど見かけない。彼らによる施設の利用は、主に午後5時以降であるという。
松山湖研究所の広大な敷地内の移動は3本のミニ鉄道が運行されている。赤い車両は、デザイン性に優れ、電池駆動で駅停車時に高速充電が行われる仕組みとなっている。
|ミニ鉄道車両の高速充電線
深圳スタートアップ訪問
海外研修の初日は、深圳の2社のスタートアップ、安赛診断と爱护人工智能科技(深圳)を訪問した。
安赛診断(https://en.accucise.cn/ https://accucise.cn/)
創業7年目を迎えたスタートアップ企業である。創業者の周氏は国際的な研究拠点で教育・研究の経験を積み、タンパク質検出に用いる独自の強化型電気化学発光技術を有している。2017年に中国で起業し、以来、この技術を中核に据えて高感度かつ高速な診断を可能にする免疫検査製品を開発してきた。
同社は設立以来、ベンチャーキャピタルから2回にわたり合計約15億円の投資を受けたが、コロナ禍の影響もあり事業はうまく軌道に乗れなかった。現在は、コロナ検査薬で急成長した製薬会社圣湘生物の傘下に入り、同社のコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)の投資先となって、安定的に運営されているようである。敗るもコロナ、成るもまたコロナ、である。
外国にいる研究者を誘致し創業を支援する事例は深圳に数多く見られる。研究者が持つ知識・経験・ノウハウと中国側の資源を結び付け、新しいビジネスを創出する成功例も数多い。中国側の支援として、政府からの創業補助金(現金)、格安オフィスの提供、住宅支援、税制優遇などが挙げられる。また、深圳や東莞の広いカバレージのサプライチェーンの存在も創業者にとって非常に価値がある資源である。
サプライチェーンと創業資金
安赛の組立現場も見学した。同社はコア部品のみを自社製造し、それ以外の周辺部品はすべて外注で調達している。深圳や東莞には、優れたアイデアさえあれば低コストかつ迅速に製品化をサポートできる、ほぼ“万能”ともいえるサプライチェーンが存在する。これは世界でも稀有であり、深圳の大きな強みの一つである。
起業家に資金を供給する主役はベンチャーキャピタルである。深圳が「中国のシリコンバレー」と呼ばれる理由の一つは、米国シリコンバレーと同様、多くのベンチャーキャピタルが集積しているからである。2023年のベンチャーキャピタル投資額は、米国が約1,700億ドルに対して、中国が約300〜400億ドル。日本は約65〜70億ドルであった。
|強化型電気化学発光技術の原理
爱护人工智能科技(深圳)
創業2年目のスタートアップである。創業者の楊氏は長年ベンチャーキャピタルに在籍していたが、自ら起業し、高齢者を守る安全装具や心身の健康を支援するソリューションを提供する。
人工智能(AI)と社名にあるが、同社のビジネスモデルにおいてAI的要素はそれほど強くないかと思われる。技術的背景は、航空産業由来のセンサー技術や素材を、生体力学(バイオダメージ学)と融合させた高齢者向けのケガ予防製品の設計と開発にある。具体的には、性能の高いクッション材を帽子や(下着)パンツなどに組み込み、転倒時のケガを軽減する商品が主力である。対象部位は「腰椎」「尾椎」「膝」「頭部」「手のひら」「肘」「足部」など多岐にわたる。また、高齢者向けのカードゲームも開発しており、認知症予防に効果があるとされる。
中心となるクッション材は、すでに航空やスポーツ分野で利用されている材料である。同社の強みは、その材料を衣服に応用するとことにあり、生体力学の視点と美観上のデザインを両立させる商品設計と開発にある。製造は外部のサプライチェーンに委託している。
新規性の高い技術というより、既存技術をうまく応用した企業である。国家級の「専精特新小巨人(スペシャリストDX企業)」に認定されている。
|爱护人工智能科技の商品
ERM価値創造学会19回年度大会
大田市場見学
東京青果(株)のご案内で、大田市場(おおたしじょう)の青果部を見学した。
市場と聞くと築地や豊洲の魚市場を思い浮かべがちだが、大田市場は東京都大田区に位置する日本最大の中央卸売市場。1989年に開場し、青果・花き・水産物を扱う総合市場として整備された。青果の取扱金額は年間3,150億円、取扱量は毎日約4000トンにのぼる。東京都民1,200万人が口にする野菜や果物の約55%がここを経由し、まさに「東京都の台所」である。
市場内の建物は広大で、面積は東京ドーム約8.5個分に相当する。訪れた日は東京の最高気温が35.5℃という猛暑日だったが、場内は屋根近くの高い場所までひんやりと涼しく、効率的な冷房システムの威力に驚かされた。取引は早朝に集中し、野菜などの出荷も朝のうちに終わる。その活気ある光景を見たいなら、朝7時台に足を運ぶ必要がある。今回の見学は午前11時だったため、野菜はもちろん、野菜くずや野菜ゴミすら見かけなかった。青果を扱う市場なのに、場内は驚くほど清潔である。
|場内11時ごろの風景
卸売市場は、全国の生産者と仲卸業者、量販店、飲食店を結ぶハブとして機能している。生鮮品は時間との勝負であり、効率的な売買と物流が何より重要。市場内外のIT化・スマート化も進んでおり、効率的な物流網やオンライン取引の導入によって、より迅速かつ安定した供給体制が整えられている。日本では輸入果物は豊富に出回っているが、青果の輸出はまだ少ない。香港やシンガポールなどアジア市場に向けて販売を拡大している仲卸業者をも訪問した。多くのアジア都市は、当日出荷当日着も可能である。今後のこのような国際展開が期待される。
大田市場は進化し続けている。これからの進化の方向性についても議論された。トラックとの連携の一層のスマート化、DX化はもちろん大方向である。無人の自動運転フォークリフトも話題になった。もう一つ注目すべきは、卸売市場が長年にわたり蓄積してきた取引量と価格の膨大なデータである。農業のスマート化・ビッグデータ化が進む今、これらのデータは価値の高い資産になる。うまく活用すれば、生産者の作付け計画や価格変動へのリスク管理に応用できる上、消費者にとっても安定した価格と供給の恩恵が広がる。
見学の締めくくりは天丼。大ぶりのアナゴが2尾ものって、とても豪快、美味しかった(写真)。
地図アプリ
地図アプリといえば、世界で最も有名なのはGoogleマップであろう。出かける際の電車経路検索や店探しに、いまや欠かせない存在となっている。アクセス不便な場所も案内することで、不動産の価値向上にも寄与し、パワフルなアプリである。
しかし、中国ではGoogleマップはあまりパワフルではない。重慶にはマリオットホテルが2つあるが、Googleマップは両方とも同じ住所として表示していた。それを依拠に予約した結果、キャンセルして予約し直す羽目になった。
重慶の中心街解放碑エリアで、イタリアンレストランをGoogleマップで検索し、ヒットした店が出てきた。半信半疑ではあったが、辛い重慶料理から逃れたい一心で4人でその店を目指した。案内されたのは飲食店が多数入る大きなビル。しかし目当てのイタリアンはどこにもなかった。周囲の店でも聞き込みをしたが、誰もそんな店は知らないという。結局、香港料理を食べることになった。実害はなかったが、友人たちからの信用は少し下がったかもしれない。
中国の代表的な地図アプリには百度地図や高徳地図がある。これらは性能が高く、運転用に使うと日本のカーナビよりも案内が丁寧で使いやすいと評判である。これらのアプリは中国で販売されているスマートフォンや中国ブランドの端末なら簡単にインストールできるが、日本で購入した海外ブランドのスマホではセキュリティが引っ掛かり、インストールには手間がかかる。これも一種のデジタルデバイドである。
都会では、高速道路が複雑に交差するのも景観の一つである。重慶には高速道路が8層に交差する場所がある。さすがにどんな高性能カーナビでもここはお手上げらしく、百度や高徳のナビシステムでさえ「他のカーナビを使ってみてください」と案内を出すという。広い世界でも、そんな場所はおそらくここだけであるといわれている。
黄金株
日本製鉄は、USスチールの全株式を約149億ドルで取得し、完全子会社化した。この買収は、2023年12月に両社が合意を発表してから、完了する2025年6月18日まで、およそ1年半を要した。
この買収に対して、バイデン政権は2024年1月に買収阻止命令を出し、その後、トランプ大統領も反対を表明した。日本製鉄は、投資と雇用を軸に、地元ペンシルベニア州や労働組合、議会、ホワイトハウスなどへのロビー活動や広報活動を続けた結果、最終的に買収を成功させた。ただし、その対価として、①米国政府への黄金株の付与、②2028年までに米国国内で110億ドルの追加投資を行う義務、という条件が課された。
110億ドルの追加投資は、トランプ大統領の任期内に実施される、政治的に分かりやすいアピール材料である。
黄金株とは、通常、拒否権付きの特別な株式であり、わずか1株の保有で、取締役の任免や重要な経営判断に対して拒否権を行使できる強い影響力を持つ。その具体的な内容はそれぞれ異なるが、今回のUSスチールのおける黄金株については、米国政府が設備投資の削減、本社移転、社名変更などに関する監督権を確保した。この黄金株により、米国政府はUSスチールをコントロール下に置き、USスチールが「アメリカの会社」であり続け、経済安全保障も維持できるとしている。
日本製鉄がUSスチールを完全子会社化したとはいえ、黄金株によって経営の自主性が損なわれる可能性も懸念されている。米国政府による経営への干渉により、経営の自由度が制限され、ガバナンスの透明性や将来の事業戦略に影響が及ぶ可能性がある。
政府による黄金株の保有例は多くないが、日本ではINPEX(旧・国際石油開発帝石、東京証券取引所上場)において、経済産業大臣が1株の黄金株を保有し、重要事項の承認権を有している。
黄金株とは異なるが、メタ(旧フェイスブック、NASDAQ上場)では、普通株であるA株に対し、創業者が保有するB株にはA株の10倍の議決権がある。また、メタは議決権を持たないC株も発行している。アリババ(ニューヨーク証券取引所上場、香港証券取引所上場)も、創業者の持株に取締役選任に関する特別な権利が付与されている。
黄金株をはじめ、このような議決権に差をつける株式は「種類株」と呼ばれる。日本の会社法においては、種類株には7つの類型が規定されている。
そもそも議決権の経済的価値はどれぐらいあるでしょうか。
伊藤園(東京証券取引所上場、証券コード2593)は、普通株と第1種優先株式(証券コード25935)を公開発行している。この優先株は議決権がないが、配当は普通株配当に25%上乗せされるほか、残余財産分配の優先権は付与されている(株主優待は普通株と同等)。2024年7月4日時点で伊藤園の普通株は3,218円、優先株は1,766円、約40%も割安。議決権の価値は、想像する以上に大きいと言えるだろう。
アナリスト意見のバラツキ
伝統的理論:合理的投資家
伝統的ファイナンス理論では、金融市場における価格形成は、合理的な投資家たちによって行われるとされている。これらの投資家は、十分な知識と分析能力を備え、入手可能な情報を迅速かつ正確に処理し、証券価格に織り込むことができるとされる。
このような枠組みにおいては、投資家の将来予測は合理的に収束するため、投資判断や証券評価には大きな違いがないと仮定できる。すなわち、予測の「正解」あるいは「コンセンサス」は、投資家たちが認識することになる。
この前提は、たとえば資本資産価格モデル(CAPM)においても採用されている。CAPMでは、すべての投資家が同じ情報にアクセスし、同じ分析力を有しており、最終的に同じポートフォリオに投資することになる。投資家たちが1つの「正解」を認識するという設定である。
検証:アナリスト予想
現実の金融市場において、投資家たちは本当に1つの「正解」を認識できるのだろうか。すべての投資家の意見を調査を行うことは無理であるが、その代わり、証券会社(投資銀行)のアナリストの目標株価予想を比較することが考えられる。
アナリストは、企業の業績や財務状況、業界動向、マクロ経済状況などを総合的に分析し、半年先の株価目標を提示している。彼らはプロフェッショナルであり、豊富な情報にアクセスできる立場にあるため、一般の投資家よりも証券評価の「正解」を認識していると期待される。
例えば、トヨタ自動車の目標株価について、7社の証券会社アナリストの予想(2024年5月〜6月上旬)は次の表の通りである。
3,000 3,200 3,200 3,200 3,100 3,200 3,200
表 トヨタの目標価格(7社、2024年5月〜6月)
完全に一致しているわけではないが、予測値のばらつきは小さく、実質的なコンセンサスが形成されていると考えられる。これは、伝統的理論の前提である「合理的投資家の意見の一致」と整合的な事例といえる。
予想が不一致するケース
一方、同時期のソフトバンクグループ(SBG)の目標株価を見ると、状況は大きく異なる。
11,000 12,960 8,770 13,600 11,000 7,780 12,000
表 SBGの目標株価(7社、2024年5月)
上の表において、目標株価は11,000円前後のグループと8,000円前後のグループに分かれ、大きなばらつきがある。最高値と最低値の差は約6,000円とかなり大きく、同じ時点に同じ企業を評価したにもかかわらず、アナリスト間の意見に大きな開きがあることが分かる。
注目すべき点は、この意見の違いは高い情報収集力と分析力を持つ証券会社のアナリストたち間に存在するものである。情報の質や分析手法が極端に異なるわけではないとすれば、これほどの意見の相違は、投資家たちの視点や見方にかなりの差異が存在し、同じ「正解」を認識しているわけではない事例である。
伝統理論と現実のギャップ
このように、ある銘柄についてはアナリストたちの間でコンセンサスが形成される一方、別の銘柄では意見が大きく異なる現実は、伝統的ファイナンス理論の「合理的投資家」仮定が一律には成立しないことを示唆する。
これらの理論と現実の間に、少なくとも以下の項目において、明らかなギャップが存在する。
項目 伝統理論 現実
投資家能力 合理的同等 能力と視点の違い
情報処理 即時正確 解釈や重視要素の違い
価格形成 合理的期待 不確実性や主観の影響
伝統的ファイナンス理論における「合理的投資家による価格形成」という前提は、便利な分析の枠組みを提供するが、実際の市場参加者の意思決定や行動は理論設定に比べ、より多様で複雑である。この現実とのギャップは、行動ファイナンスの研究対象である。
注目される企業や話題性の高い銘柄に対する将来の展望は、コンセンサスが形成される場合と見方が大きく分かれる場合がある。この謎に対して、行動ファイナンスの枠組みを利用して、情報の非対称性、行動バイアス、認知限界等の制約を織り込んだ究明が求められる。これらの作業から得られる知見は、実務への応用も期待されよう。
日本ダービー
日本ダービーは、皐月賞、菊花賞と並ぶ牡馬三冠レースの一つで、毎年5月下旬から6月上旬の日曜日に東京競馬場で開催、3歳のサラブレッドが出走するG1競走である。今年は6月1日に開催され、クロワデュノールが優勝をした。
クロワデュノールは、皐月賞でも2着に入る実力を持ち、ダービーでは単勝オッズ2.1倍の1番人気。なお、2番人気は5.7倍、3番人気は6.8倍であった。競馬において、馬の勝利確率を客観的に知ることはできないが、オッズの逆数は、参加者投票結果としての「主観的確率」とみなすことができる。この「主観確率」は、クロワデュノールは約48%、2番人気は約18%、3番人気は約15%の勝利確率である、と出走前に分かる。
つまり、1番人気の馬券を購入することは、主観確率48%で勝つゲームにベットする。2番人気であれば18%、3番人気なら15%の確率のゲームに賭けることになる。ちなみに、15番人気の馬は単勝オッズ298倍であり、その逆数の主観的勝利確率は約0.3%と極めて低い。こうした馬券は一般に「大穴」と呼ぶ。
ここで注目すべきなのが、人間の「確率認識のバイアス」である。プロスペクト理論によれば、人間は確率を正確に認識できず、とりわけ小さな確率を過大に評価する傾向がある。30%や50%といった程度の確率は比較的正確に捉えられるが、小さい確率は、実際よりかなり大きな倍率で感じる。そのため、48%のゲームは合理的に判断されやすいが、大穴馬へのベットは、強い確率バイアスによって非合理的な選択になりやすい。
なぜ人は小さな確率を過大に認識してしまうのか。競馬においては、以下のような心理的メカニズムが影響していると考えられる。
1)利用可能性ヒューリスティック
メディアなどで取り上げる「万馬券」や「大穴的中」のストーリーが記憶に残りやすい。印象的な出来事が「すぐ思い出せる」ために、その頻度や確率も高く見積もってしまい、大穴は実力以上にかがやく。このような印象の強さや思い出しやすさによって発生するバイアスは利用可能性バイアスを構成する。
2)ハウスマネー効果
これまでの(一日の)レースで勝った人たちはある割合いる。彼らはすでに得た賞金を「自分の資金」と見なさず、「ハウスマネー(胴元の金)」と認識する傾向がある。人のお金を使うという心理状況は、よりリスクの高い選択にする傾向を作り出す。「勝ち金で勝負する」という心理的”余裕”が、大穴狙いの動機になり、大穴には実力以上の買いが集まることになる。
3)ブレークイーブン効果
これまでのレースで負けた人たちは、損失を取り戻そうと、高リスクの賭けに出やすい。この「一発逆転」を狙って損を取り戻そうとする心理によるバイアスは、ブレークイーブン効果という。大穴の過度な人気は、このような損を取り戻そうとして無理にハイリスクにベットする資金に支えられている部分がある。
これらの心理的要因によって、大穴の馬券に実力以上の資金が集まり、オッズが実力より低下し、主観的勝率が上昇する傾向になる。
継続的に競馬に投資をするなら、高人気馬(=高確率のゲーム)に賭けた方が、成果が相対的に安定するかと思われる。一方で、大穴狙いは心理的、感情的な魅力はあるが、投資成果はかなり不安定で、損失のリスクは大きい。行動経済学・行動ファイナンスのフレームワークを利用する考察の結論は、直感的な感覚と整合的である。
🔖ビジネスクロストーク
【公開講座】MBSクロストーク(全6回)
アカデミアと実業の垣根を超えたコミュニケーションの機会として、経営懇談会「MBS クロストーク」を開催いたします。
第1回 2025/5/10(土)19:00~20:30
「ソニーのサステナブルな企業価値向上を支えるM&AとCVC」
ゲスト:御供 俊元 特別招聘教授(ソニーグループ株式会社代表執行役 CSO)
司会:岡俊子専任教授
第2回 2025/6/21(土)19:00~20:30
「台湾有事に企業経営者はどのように向き合うべきか」
ゲスト:ジョセフクラフト 特別招聘教授(ロールシャッハ・アドバイザリー㈱代表取締役)
司会:岡俊子専任教授
第3回 2025/7/19(土)19:00~20:30
「パラダイムシフト時代の経営」
ゲスト:岩本 敏男 特別招聘教授(株式会社NTTデータグループシニアアドバイザー)
司会:王京穂専任教授
第4回 2025/10/18(土) 19:00~20:30
「BIPROGYグループが歩んだ軌跡と照らし出す未来」
ゲスト:齊藤 昇 BIPROGY株式会社 代表取締役社長CEO
司会:池田義典特任教授
第5回 2025/11/15(土) 19:00~20:30
「グローバル企業での学び」
ゲスト:井辻 秀剛 北陸コカ・コーラボトリング株式会社代表取締役社長
司会:橋本雅隆専任教授
第6回 2025/12/13日(土) 19:00~20:30
「企業内価値と市場価値、どちらを高めるか?」
ゲスト:内田 和成 ボストン・コンサルティング・グループ元日本代表、元早稲田ビジネススクール教授
司会:首藤明敏専任教授
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公開授業中止
さくらサイエンス 明治大学🌸清華大学
下記イベントは中止とさせていただきます。関係者の皆様には大変ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。
(プログラム担当)王京穂
さくらサイエンスプログラム
明治大学×清華大学 オープン授業
さくらサイエンスプログラムは、日本の科学技術学術振興機構が運営する国際人材交流プログラムである。プログラムの目的は、日本と世界の若手研究者や学生との交流を促進し、科学技術学術分野における連携の強化である。明治大学と中国清華大学のプログラムは12月17日から22日まで実施する。以下の授業を公開する。
プログラム名: 高齢化と介護―社会保障、金融とテクノロジーの応用
実施機関: 明治大学(MBS)
参加者: 清華大学社会科学学院の博士学生および講師 8名
場所: 明治大学アカデミコモン9階 309J教室
公開授業日程
12 月 18 日(水)
・ 9:00 開講式(オリエンテーション)
・ 9:30 日本のシニア市場(中島聡先生、MBS非常勤講師)
・11:00 成長産業とCCRCのビジネスモデル(山口不二夫先生、MBS教授)
・13:30 人生100年時代の金融サービス(王京穂先生、MBS教授)
12 月 19 日(木)
・ 9:00 在宅介護におけるロボットの応用
・10:30 日本の医療保険と介護保険(田中智恵子先生、MBS非常勤講師)
・13:00 日本の再生医療の現状紹介(刘婷先生、明治大学データアナリティクス研究所)
12 月 21 日(土)
・13:00 健康寿命と QOL
・14:00 修了式・交流会
第59回(2023夏)ジャフィー大会
2023/8/19 第59回(2023年度夏季)ジャフィー大会で発表しました。
効率的市場仮説の検証に関するものである。混合反応(消化)プロセスの元に、ボラティリティの変動を軸に、MA-GARCH モデルを利用し、各国の株式市場の指数に対する検証を試みたものである。
ERM価値創造学会17回年度大会
オルタナティブデータ協議会入会
2022/9/26 オルタナティブデータ協議会に入会しました
ERM価値創造学会16回年度大会